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見えない愛が見える……盲目の2人が恋するとこうなるのメイン画像
andGIRL5月号より
放送作家・コラムニストの町山広美さんが女子力アップにつながる映画を紹介する『andGIRL』の人気連載「町山広美の『女子力アップ映画館』」。今回は、普通の恋愛映画とは一味違うという映画『イマジン』の魅力を町山さんに教えてもらいました。
*  *
描かれるのは、目の見えない人たちの恋愛だから。自分に引き寄せるのは難しい。そう思って見つめていたのに、映画はやがて、ぐん!と近づいてきます。
これは特別な、遠い話じゃない。「愛するってどういうこと?」という、とても身近な難題が細やかに語られていたのだと気づかされます。愛は私たちの内側にあって、見えない。これは、その見えないものを、目が見えているはずの私たちにも見せてくれる映画です。
視覚障害者の寄宿学校に、主人公のイアンが教師としてやってきて、物語は始まります。イアンは見えないのに、白い杖を持っていない。彼は、舌や指や靴を鳴らして、その反響音から周囲に何がどのくらいの距離にあるかを感じとる「反響定位」という特別な技術を身につけているのです。
さらに、嗅覚も優れている。視覚を他の感覚で補って、誰かに世話を頼まず、自由に生活したい。それがイアンの願い。そのためには、うまく感じとれずにケガをしたり、危険に身をさらすことも恐れないとても勇気のある人です。
彼はその勇気と希望、外の世界の喜びを子どもたちに伝えようとします。でも、心の傷む体験をしてきて警戒心の強い彼らは抵抗します。イアンの隣室には、ひきこもって生活するエヴァがいます。その気配にひと目惚れした彼は、窓に小鳥を寄せるのが好きな彼女の気をひこうと、針金と石で小鳥の音を装う。盲目の人が盲目の人を、音でだますなんて。そう思いますか?でも、彼氏が好きな映画を好きじゃないのに好きと言うとか、気をひくために嘘をつくことなんていくらでもある。イアンがしたのはそういうこと。
この映画は「目の見えない人がそんなことをするなんて」と驚く展開を次々と仕掛けてきます。それらは、角度を変えて見ると、私たちがしていること。見えることに守られているから、本質を見落としているだけ。学校に守られていた生徒にも、エヴァにも、イアンは少しずつ影響をもたらしていきます。
そしてついに、イアンとエヴァが街へ出かける。そこは、柔らかい光が降り注ぐリスボンの街。人も車も行き交う中を歩く2人を、私たちはひやひや見守ります。でもイアンは確信に満ち、それはエヴァも満たしていく。真に愛し合っている2人とは、こういうものではないかしら。

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