andGIRL

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andGIRL9月号より andGIRL9月号より

放送作家・コラムニストの町山広美さんが女子力アップにつながる映画を紹介する『andGIRL』の人気連載「町山広美の『女子力アップ映画館』」。

今回は、映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』の魅力を教えてもらいました。

*  *  *

ニューヨークのブルックリンの住宅街に建つ、薄汚れた家。そこに住むのは、いつも不機嫌で飲んだくれの独居老人、ヴィンセント。ギャンブルが大好き、人は嫌い、子どもももちろん嫌い。

それなのに、お隣にシングルマザーと12歳の少年オリバーが引っ越してきて、母親の留守中に、彼の世話をすることに。目的は小銭稼ぎ。少々のベビーシッター料も必要なほど、お金に困っています。

これが少年とおじいさんが仲良くなる話だってことは、見始めてすぐ察しがつく。だからこそ、2人はとびきり魅力的でなくちゃ。まず、ヴィンセント。口を開けば、下品で差別的な言葉が飛び出す。小銭がはいれば、ロシアからやってきた妊娠中の娼婦を買う。とんだクソじじいで、エロじじい。でも、きれいごとでごまかさず、自分をむき出しで生きてるところに、妙な愛嬌があって。日本で言えば誰だろう、おしゃれをしない大竹まことって感じでしょうか。

演じるのはビル・マーレイ。ひどいことばっかり言っていつも不満そうなのに、それが面白い。もちろん、脚本はあて書き。同業者にファンが多く、今回の豪華な共演者があんまり得にならないキャラクターをノリノリで演じているのも、この人との共演に意義と喜びを感じるから。オリバー役の新人は、頭の回転が速くて落ち着いた、少し大人びた少年を体現していてキュート。同じ年頃のとき、『アバウト・ア・ボーイ』でやはり変わり者おじいさんと心通わせる少年を演じて注目された今人気の俳優、ニコラス・ホルトのような将来を期待したくなる。

そして、ヴィンセントと仲良しの妊婦の娼婦を下品な厚化粧で演じるのはなんと、ナオミ・ワッツ。空気を読まないけれど実はいいヤツ、という役を一瞬も美人に映らないのにめいっぱいやりきる、ナオミ本人もまたいい人に違いありません。

少しだけ大人びた12歳とサイテーのクソじじい。2人がどんな風に近づいていって、どんなトラブルが起こり、さらに近づくのか。ありがちな感動を巧みに迂回しつつ、描かれていく。監督は新人ながら、CMで経験を積んだ演出の手つきは確か。そして、そんな2人がお互いに敬意を持ち合う決定的な瞬間をどう描くか、そのアイデアがいい。

※『andGIRL』2015年9月号

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